2012/11/23

リングに上がったなら、絶対に勝つ。


友人の早大生から
プロボクシングのデビュー戦の招待があった。
元スタッフの井上が仕切ってくれていたので、
チケットをお願いして、自転車で観戦に行った。
はじめてのボクシング。
はじめての後楽園ホール。
ここが『はじめの一歩』で描かれていた場所か
と思いながら席に座った。

彼は、人生でただ一度きりの挑戦と自分で決めて、
プロデビュー戦兼引退試合に臨んでいた。
リングに上がり赤コーナーに立った彼は、
当たり前のことなのだろうけれど、
ふだんの穏やかな雰囲気とはまったく違っていた。
一人の戦う男になっていた。

彼とはよく会っていたのだけれど、
二人でゆっくり語ったことはない。
だから、彼の覚悟の裏に
どのような背景があるのかを僕は知らない。
それでも、彼のその姿を見た時は、
僕の心の中で震えるものがあった。

緊張していたのか、作戦なのか、
ボクシングの素人の僕には分からないが、
最初は押されているように感じた。
でも、試合が進むにつれて、
すこしずつ打ち返しはじめたように思えた。
相手にも効いてきたのか、
彼が一方的にパンチを繰り出すシーンもあった。
会場のホールは沸いて、僕も熱くなってきた。

でも、最終ラウンドのひとつ前のラウンドに入り、
防戦に回ることが増えた。
「勝っても負けてもKOになる試合になると思います」
と言っていた彼は、打ち込まれ続けながら、
それでも前に進もうとするのだけれど、
そこにうまくカウンターを当てられる。
そこでガードをした途端に、一気に押し込まれる。

そんな場面が何度か繰り返された後、
ラウンド終了まで残り数秒というところで、
審判が試合を止めた。
客席からは彼の表情までは読み取れなかったけれど、
戦意は十分にあるように思えた。
まだ試合は続くだろうと思えた。
でも、無情にも、試合はそれで終わりだった。
三年をかけて挑んだ彼のプロデビュー戦兼引退試合は、
一度も倒れることのないまま、諦めることのないまま、
10分も経たずに「敗北」という結果で終わった。

先週の塾報で僕はこう書いた。

「ヘタレだっていいんだよ。ダメだっていいんだよ。
勝負に負けたって、いいんだよ。いや、よくないけどさ。
でも、人生、すべての勝負に完璧に勝てるわけじゃない。
そんな人生、あるわけがない。
勝ったり負けたりを繰り返していくけれど、
でも、その時々で全力を尽くせば、
それで後悔することはないだろう。(中略)。
どんな敗北をしても、
俺はその時々でやるべきことをやってきた。
ヘタレでも、その時の自分なりに
できることを精一杯やってきた。諦めなかった。
だから、自分が挑戦したことに後悔することはない。
でも、挑戦しないでオリてたら、俺は絶対に後悔してたよ。
この十年間の人生が俺の人生の中でないとしたら、
俺はそんな人生を生きたくはない。」

今でもそう思っていることに変わりはない。
これは僕の信念として、変わることはないと思う。
でも、これを書いた三日後に痛感したのは、
敗北はツラいなということ。
どれだけ涙を流しても癒されないほど、ツラい敗北がある。
きっと時はすべてを洗い流してくれるのだろうし、
敗北が意味を持つことも間違いなくあるのだろうけれど、
それでも、できることならその辛さは味わいたくないし、
味わわせたくない。

世界は無常で不条理だから、時には理不尽な敗北がある。
「自分」には負けなくても、「勝負」には負けることもある。
たしかに、それは避けることができないし、
仕方のないことなのかもしれない。
でも、一度リングに上がったなら、負けちゃいけないんだ。
絶対に勝つ。
そのことだけを思って全力を尽くそう。
その後のことは、その後になってから考えればいいんだ。

リングに上がったなら、絶対に勝つ。
そのことを、彼が見せてくれた勇姿とともに、
忘れないようにしようと思った。

#ff4500、更新されています。今回は、映画について。
 僕の愛する『ニュー・シネマ・パラダイス』は、
 そういえば甲斐に教えてもらったんだったと、
 これを読んではじめて気がつきました。